来るべき書物の予告篇

海外文学を中心とした書評、作家志望者のためのアイデアノート

10のリフレーミング・ゲームと「すばらしき新世界プロジェクト」

リフレーミング・ゲームとはなにか

「リフレーミング」とは心理学やコーチングで使われることの多い言葉だが、ここでは小説や物語の書き換えを意味する。

リフレーミング・ゲームとは何か。それは物語を書き換え、異なる視点から見ることにより、物語を新しい形で体験するためのゲームだ。読み方を変えるもの、書き方を変えるもの、読む以外の体験方法を提示するものなど様々で、大掛かりなものから、日常使えるものまで規模も様々である。

その主な特徴としては①グループで行うこと②「読書」「議論」「創作」が有機的につながること何よりもゲームであり、遊戯的であること が挙げられる。

当初子どもの国語教育のため、想像力によって文章を読み解く方法として考えられた。

しかし実際、大人によってプレイされても十分に楽しめるだろう。また潜在的な作者である「書きたい・しかし書けない」人々にとってもリフレーミング・ゲームは意味を持つ。そこには読書と創作が一体のものとなり、また個によるものから共有的なものになり、小説を中心とするテキストも自在に書き換え可能な冒険的なものとなり・・・物語づくりが特権的なものから、より身近で日常的なものになっていく可能性が秘められている。

ここではリフレーミング・ゲームのコンセプチュアルなアイデアを10、紹介したい。

 

リフレーミング・ゲームのレッスン10

 

 

リフレーミング・ゲーム①

 

収容所群島

 

言論の自由が奪われた収容所ないし監獄という設定の世界で、巡回する看守の眼を盗み、グループで創作を行う。「人々に希望を与える物語」あるいは「この時代の証言」を完成させるのが目的であり、自分たちが書かなければ文学は死滅してしまうという緊張感と使命感を伴う。創作と体験ゲームの両面を持つのが特色。

 

リフレーミング・ゲーム②

 

ターボ・フューチャリズム

 

未来に書かれるであろう物語を予想するゲーム。単なるSFではなく、例えば西暦3000年を舞台に、何が失われ、何が残るのか。人間性は?愛は?そして「現代」の人間がどのようなテーマで、どのような物語を描くのかを検討する。SFのキーワードと解説を参考文献として行う。

 

リフレーミング・ゲーム③

 

作者をさがす旅

 

異なる時代、国籍、作者による複数の短篇小説を「ひとりの作者による作品」として読み、その架空の作者がどのような人間であるのか、作風、文学理論を議論する。作品に対する新しい視点が得られ、コンセプト抽出の訓練となる。

 

リフレーミング・ゲーム④

 

コラボレーション

 

2つの物語を繋ぎあわせ、リメイクするゲーム。ほぼ原型をとどめて2つの物語を結びつけるという手もあれば、2つの物語を完全に融合させ、新しい物語にしてしまうという手もある。「イリアス」と「シャーロックホームズ」など以外な組合せほど良い。

 

リフレーミング・ゲーム⑤

 

ユートピアだより

 

まずは「万人が完全に幸福な」理想社会をグループで検討し、創作する。次に賛成派と否定派に別れ、本当にそのユートピアに生きる人々は「幸福」なのかを討論する。この議論・創作を繰り返せば、理想社会は改良されるどころかディストピアに近づくだろう。

 

リフレーミング・ゲーム⑥

 

ブックパズル

 

読んだ本、テキストをルールに従って書き換える。主人公・結末・舞台の変更、様式の変更、続編の創作、新しいシーンの追加、「モノローグ(心の声)」の挿入、登場人物へのインタビューなど多岐にわたり、最も基本的なリフレーミング・ゲーム。

 

リフレーミング・ゲーム⑦

 

ヴィジュアル・ストーリーテリング

 

複数の写真、絵を用意しそれを題材に物語のプロットを作る。写真は全て使っても、逆に一枚しか使わなくても良いが、この作業をグループで話し合いながら行うことが重要。イメージからの連想、説明、その組合せ、現れる物語を楽しむ。

 

リフレーミング・ゲーム⑧

 

夢の操縦法

 

自分の見た夢を記録したもの(本物でなくても良い)を、グループで持ち寄る。それに合理的な説明を加え、物語のプロットにするゲーム。夢の読み解きは、イメージからの連想と物語の類推により行われる。最終的には千夜一夜物語のごとき夢の短篇集となろう。

 

リフレーミング・ゲーム⑨

 

ブックショップへの長い道

 

題材のテキストを読み、それを単行本にした時のブックデザインを創造する。そこから解説は?推薦文は?どんなポップを付けるか?どんな本棚に、どんな本と一緒に置くかを逆算していき、本屋の一角を誕生させる。実際に模型を作っても良し。

 

リフレーミング・ゲーム⑩

 

そして最後となるのが「すばらしき新世界プロジェクト」である。

 

このゲームのコンセプトは作り込まれた究極の物語世界、オルタナティブ・ワールドを作ることである。それは各々の温めてきた物語世界の設定を繋ぎあわせることから始まる。

 

リアリズム×幻想、ファンタジー×SFスチームパンク×サイバーパンク、東洋×西洋、設定×設定、作者×作者。それはアメコミのフュージョン=モノを越え、どこまでも展開して止まることのない「増殖する設定地図」の宇宙だ。物語の様式や雰囲気もまた軽々と越境され、文学的テーマにはキッチュなストーリーが、ポップなキャラクターには哲学的な深みが提供される。

 

そこではどのような世界観でも取り入れられる。極端に異なる世界であっても、過去・未来・平行世界・メタ構造を活かして繋ぎあわされる。それはアクロバティックな文学サーカスとなるだろう。物語の具体的なストーリーではなく、本来は背景となるべき世界観設定こそがメインコンテンツとして扱われる。まさに物語作りを目的としたゲームであり、ショーなのだ。

 

それは物語のビオトーブであり、闘技場であると言える。カオティックにあらゆる世界観を呑み込むこのシェアワールドの群体において、立ち現れるべき未来の物語が先現する…かもしれない。いずれにせよ、このゲームの参加者は、共有するこの世界観を舞台として、自由に創作することができるのである。