断片メモ、「未来派野郎」について
前回の追補として、“教授”/坂本龍一のアルバム=『未来派野郎』を紹介したい。
未来派の音楽化というより、彼らの活動をサンプリングしながら、そこから連想されるイメージを表したというべきか。
ブレードランナーやフィリップ・K・ディックといったSFのモチーフも盛り込まれている。
(このジャケット写真の撮影法も、スピードと躍動を示すとして未来派が好んだものである)
https://www.youtube.com/watch?v=34Io8nUTDhU
01.G.T.
02.Broadway Boogie Woogie
曲中流れる男女の会話は、イメージはマリネッティの考案した自由詩のスタイルを用い、映画「ブレードランナー」からワンセンテンスずつサンプリングして、それぞれ別の場所にあったものを会話風にコラージュされた。
03.黄土高原
https://www.youtube.com/watch?v=2bOFigXtK0o
04. Ballet Mécanique
時計が時を刻む音や、カメラのフィルムを巻き取る音などをサンプリングしてリズムを組み立てている。
05.G.T.IIº
06.Milan, 1909
“スペースコロニーの東洋人地区の端末で「未来派」を検索したときに流れるBGM”というイメージで作られた曲。1909年は詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティが未来派宣言を発表した年である。後半から現れる高次倍音を含んだ朗読はヴォコーダーではなく、マッキントッシュのソフトウェア「Smooth Talker」で作られた合成音。内容は細川周平による未来派の解説。
https://www.youtube.com/watch?v=JLLmbbCntLI
07. Variety Show
マリネッティの演説がラップとして乗る曲。タイトルはマリネッティ自身が演説会のことを“ヴァラエティー・ショウ”と呼んだため。サンプリングには機械音、放電の音、兵器の音、マリネッティの頃のピアノ曲など、「未来派」のキー・コンセプトに該当する素材を探し出して使われている。音声は「未来派」を意味する「フューチャーリスタ(Futurista)」がサンプリングされている。
08. 大航海 Verso lo schermo
09. Water is Life
10. Parolibre
フィリップ・K・ディックの近未来SFの世界の世界で、2056年ぐらいの遠い惑星に住み、ブロードキャスティングで地球から送られてくる放送を惑星のスペース・カプセルの中で聴いているというイメージで作られ、仮タイトルは「オペラ」であった。
説明はウィキペディアに代弁してもらった。
個人的なお気に入りはVariety Showか。騒々しさと攻撃性、その背後に高まる
不安感は当時の世相をよく捉えているのではないかと思う。
何より力強い「フューチャリスタ!」の喚呼が良い。
こうしたコンセプト・アルバムという作り方は最近では流行っていないのだろうか?
あまり耳にすることはないが、完全な傑作選でもなく、連作短編でもなく、同世界観を描いているのでもなく、ゆるやかに共通のイメージを持ち、かつひとつのアルバムで大きな物語を完結しているというやり方は、小説短編集の構成と比較してみるとおもしろいのかもしれない。
ともあれ、秋の夜長は未来派のテクノロジー・ガジェット愛に浸ろう!
おまけ
https://www.youtube.com/watch?v=HY8kVa0qB9Q
マリネッティの「未来派宣言」に朗読と演技、アニメを付けたもの(英語)
何気にBGMも良い。